平成21年度卒業

門阪 祥吾
友人関係ネットワーク分析における中心概念に関する分析



1. はじめに

 社会ネットワーク分析とは行為者の属性ではなく,その関係性に着目して現象を捉えようとする方法論です.人間関係のネットワークでは,組織において個々のノードがそれぞれ性質(役割) を持っています.例えばある会社の社長,部長,平社員という役割を持つ3人の関係では,それぞれの関係に権力的な力関係が発生します.このように人間関係には様々なノードの性質があります.本研究では,ネットワークの構造のみによって導出される中心概念に注目し,そのグラフ論的中心と実際の社会における役割や性質がどのように関係しているのか比較を行います.


2. 中心概念

 本研究では,ネットワークの構造から求まる中心を区別のためにグラフ論的中心と呼びます.中心性には様々な指標が存在するが,本研究ではそれらのうち基本的な中心性指標である次数中心性,PageRank,媒介中心性,離心中心性,近接中心性を用いて,構築された友人関係ネットワークにおけるグラフ論的中心となるノードを計算しました.グラフが強連結でない場合,最短距離が無限大になり,逆数を求めると中心性が0になってしまう問題が生じるため、友人関係ネットワークで生成される強連結のグループにおいて,グループごとに中心が存在すると仮定して分析を行いました.

3. 友人関係ネットワークにおける中心性

3-1. 友人関係ネットワークの導出

 比較には本学の2008年度の情報工学科2年生の友人関係ネットワークを用いました.友人関係ネットワークの生成には,下村らが提案した友人スコアを用いました.友人スコアとは,学生証による出欠打刻の時間差から求まる友人関係の近さを表す指標です.また,友人スコアが高いほど親密度が高いと推測されます.

3-2. アンケートによる中心的役割をもつ人物の取得

 本研究で実施するアンケートは次の項目に注目し比較を行いました.アンケートは,比較をするために実験データである本学の2008年度の情報工学科2年を対象としました.比較対象となる学生の人数は,162名となりました.自己評価は,学生が自分自身について回答したもの,他者評価は,自分以外の学生から評価されたものを表します.各項目について,自己評価は,あてはまる,ややあてはまる,あまりあてはまらない,あてはまらないで答えてもらい,他者評価はあてはまる人物にチェックをつけてもらいました.グラフ論的中心との区別のために,アンケートから得た中心を主観的中心と呼びます.アンケート項目は次の通りです.

 
                       
自己評価:社交的だ,リーダーシップがある,提案するタイプだ

                        他者評価:頼りにしている,自分より格上だ,リーダーシップがある,顔が広い



3-3. グラフ論的中心と主観的中心の比較

 アンケートによる主観的中心とグラフ論的中心を次のように定め比較を行いました.アンケートの主観的中心については,主観評価では自身について控えめに回答することを考慮し「あてはまる」と「ややあてはまる」を選択した学生を中心とみなし,客観評価では他の学生より「1人でも支持」されている学生を中心とみなします,グラフ論的中心については,各グループに中心学生がいることを予想し「グループの構成人数に比例した数だけ中心度上位から選択」した学生を中心とします.結果は表1となりました.

表1:グラフ論的中心と主観的中心の再現率・適合率


 各性質について比較してみると,他者評価の「自分より格上だ」,「リーダーシップがある」の重み付きの次数中心性とPageRank,つまり次数を用いる中心概念の中心度が高くなっています.友人関係ネットワークにおける次数は友人の数を表すので,重み付きの次数中心性の中心度が高いというのは,より仲の良い友人の数が多いことを表します.これらの役割には,次数を用いた中心概念が関係していると考えられます.また,「リーダーシップがある」という項目は,自己評価にも存在するが,他者評価と同じ傾向は見られませんでした.友人が多い学生がリーダー的な傾向を持つことを妥当だと考えると,自己評価よりも,他者評価がグラフ論的中心とよく対応することが説明できます.比較では,「友人スコア」を重みとして用いた場合と重み無しの場合についても比較し,友人関係ネットワークでは友人の度合いを考慮して分析を行うことが有効だとわかりました.

4. まとめと今後の課題

 本研究では,行為者の属性ではなく,ネットワークにおける関係性に着目して,学生の性質との関連について比較を行いました.しかし,行為者間の関係であるグラフ論的中心と学生の性質との関係性を特定するには至りませんでした.今後は,他の中心概念の適用や,中心性以外の指標の導入を検討する必要があります.また,アンケートの項目についても検討する必要があります.